CKD(慢性腎臓病)における降圧治療

 慢性腎臓病(CKD)とは何らかの腎障害またはGFR>60mL/min/1.73m2が3か月以上持続する状態である。CKD患者は全国に1330万人いると推定されており、新たな国民病として注目されている。それは、CKD患者が末期腎不全から透析に至る予備軍であるだけでなく、心血管死亡率が高いことによる。 高血圧を合併するCKD患者にとって降圧治療は透析を回避するために最も有効な治療である。その有効性を最大限に発揮するには、目標降圧値まで降圧し、推奨される第一選択薬を使用することが望ましい。CKD患者の降圧目標および第一選択薬を表1に示す。ただし、75歳以上の高齢者においては、個人差が大きく、動脈硬化が進行していることもあり、降圧目標は定められていないが、高齢者の降圧治療の私案を本稿の最後に示す。
表1

1. 非糖尿病CKD患者の降圧目標

糖尿病を合併しないCKD患者において血圧を140/90mmHg未満に維持することが腎機能の悪化を防ぐ [1-4]。また、尿蛋白が認められる場合には、降圧目標は130/80mmHg未満にすることが腎機能の低下を抑制する可能性が示されている[1]。

尿蛋白が認められないCKD患者は、腎機能のみが低下(GFR60mL/min/1.73m2未満)する症例であり、腎細動脈の硬化が原因となる腎硬化症の可能性が高い。このような症例では、過剰な降圧が糸球体への血流を減らし、さらなる腎機能の低下をきたす恐れがあり、降圧にあたっては慎重に行う必要がある。腎硬化症患者に対する降圧目標を決める研究である African American Study of Kidney Disease (AASK)では尿蛋白が陰性または少量の場合(0.22g/gCr未満の患者)、130/80mmHg未満に厳格に降圧した場合に140/90mmHg未満の通常治療群と比較して腎機能の悪化を認めることが示されている[5]。

糖尿病でないCKD患者が参加した11のランダム化比較試験のメタ解析では、収縮期血圧が110-129mmHgにあることが、有意に腎不全のリスクを抑制することが報告されている[4]。しかし、厳格な降圧治療がCKDの進展を抑制することが示されているのは尿蛋白2g/日以上の患者に限られる[4]。

糖尿病でないCKD患者において、尿蛋白陽性の場合にはACE阻害薬あるいはアンジオテンシン受容体拮抗薬が第一選択薬である。尿蛋白量が1g/day以上の非糖尿病患者に対して行われた(Renoprotection of Optimal Antiproteinuric Doses) ROAD研究は、尿蛋白が減少する限りRAS阻害薬を増量して治療することが腎予後を改善することを示した[6]。平均年齢は55歳、平均GFR30mL/min/1.73m2、平均血圧150/80mmHgで、各群90名の患者が登録され、観察期間は3.7年であった。ベナゼプリル投与群、ロサルタン投与群ともに標準治療群では、約1.5g/dayの尿蛋白が約35%減少したのに比較して、強化治療群は約2.0gの尿蛋白が50%減少した。この結果、血清クレアチニン値の2倍化、末期腎不全、死亡からなる腎複合エンドポイントは、強化治療を行うことにより標準治療に比較して47%抑制できたことが示されている。観察期間中の死亡はなく、心血管疾患発症は両群で差がなかった。高K血症は強化治療群に多く認められた。この結果からは、尿蛋白1g以上の非糖尿病CKD患者では、尿蛋白量を最大限減少する量のACE阻害薬またはARBを使用することにより、腎機能低下を抑制することができることが示唆される。興味深いことに、治療開始3か月後の尿蛋白量減少率と腎機能低下速度、および研究終了時のクレアチニンクリアランス値には相関が認められ、治療開始後3か月の尿蛋白量をモニターすることで予後予測因子となることも示された。この結果は糖尿病でないCKD患者の尿蛋白量を計測し、尿蛋白が減少するように治療することの重要性を示す。

2. 糖尿病合併CKD患者の降圧目標

● 正常アルブミン尿の場合(尿アルブミン30mg/gCr未満)

尿蛋白陰性の糖尿病患者では、腎症が発症しているかどうかが問題となる。5年以上血糖管理が不良な場合は尿蛋白が出ていなくても糸球体のびまん性病変は存在する。また、高血圧がある場合には細動脈硬化病変が形成される腎硬化症が合併している可能性もある。この両者を考慮して降圧治療を行うことが必要である。

日本腎臓学会のCKD診療ガイドライン2013では腎硬化症は尿蛋白がなければ140/90mmHg未満、微量アルブミン尿以上のアルブミン尿があれば130/80mmHg未満が降圧目標である[7]。糖尿病合併高血圧患者のランダム化比較試験であるAction to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Blood pressure (ACCORD-BP)の正常アルブミン尿患者を解析したデータにおいても厳格な降圧は必ずしも良い結果につながらないことが報告されている。ACCORD-BPで示されるように、正常アルブミン尿の患者では、140mmHg未満を目指す通常治療と比較して120mmHg未満を目指す厳格な降圧が顕性蛋白尿への進展を抑制することは証明されていない(HR1.14(95%CI: 0.66-1.96))[8]。一方、高血圧を合併する2型糖尿病患者に対してオルメサルタンを投与して微量蛋白尿の発生をプラセボに比較して抑制できるかどうかを検討したのがRandomized Olmesartan and Diabetes Microalbuminuria Prevention (ROARDMAP)である。オルメサルタン群はプラセボ群に比して23%顕性アルブミン尿の発現を抑制した [9]。血圧はオルメサルタン群で125.7/74.3mmHgまで、プラセボ群は128.7/76.2mmHgまで低下しており、その差は収縮期血圧3.1mmHg、拡張期血圧1.9mmHgあり、有意差がある。血圧を補正するとオルメサルタンは顕性アルブミン尿への進展を抑制するが、有意ではなくなる。すなわち、ARBによる直接の糸球体への作用に加えて、全身の降圧効果が微量アルブミン尿の発生を抑制していると考えられる。ACCORDとROARDMAPの結果からは、正常アルブミン尿の糖尿病患者は、120-130mmHgまで降圧するのが腎予後を改善すると考えられる。

13のランダム化比較試験に登録された37736名の糖尿病患者のメタ解析の結果では、障害される臓器により降圧目標は異なる可能性が示されている。この解析に含まれる患者はほとんどが正常アルブミン尿である。尿蛋白がない糖尿病合併CKD患者において、脳卒中や腎不全を減らすためには、収縮期血圧130-135mmHgへの降圧は副作用が少なく、かつ有効であるが、心血管疾患の発症には注意が必要であると結論されている[10]。実際、冠動脈疾患を合併した糖尿病患者に関する研究であるInternational Verapamil SR-Trandolapril Study (INVEST)のサブ解析では、130mmHg未満に降圧した群と130-139mmHgにコントロールした群では心血管アウトカムに差がないことも示されている [11]。また、INVESTでは収縮期血圧が110 mmHg未満に低下すると死亡率が有意に上昇することが示されている [11]。INVESTのサブ解析からは、冠動脈疾患を合併する正常アルブミン尿の糖尿病患者においては、収縮期血圧130 mmHg未満への降圧が必ずしも有効ではない。心血管合併症を有する患者では過剰降圧を避けることが重要なポイントとなることが示唆される。

● 微量アルブミン尿の場合 (尿アルブミン 30-299mg/gCr)

微量アルブミン尿が糖尿病患者にとって末期腎不全だけでなく心血管疾患のリスク因子であることは良く知られている。しかし、微量アルブミン尿の患者において厳格な降圧が腎予後を改善するというエビデンスは弱い。

ACCORDのサブ解析で、微量アルブミン尿以上の蛋白尿を示す患者では、厳格な治療を行った方が顕性蛋白尿の発生が遅れることが示されている(HR 0.71、(95%CI; 0.54 -0.93))[8]。この結果からは、微量アルブミン尿を示す糖尿病患者では130/80mmHg未満を降圧目標とすることが望ましい可能性が示唆される。

一方、微量アルブミン尿がある糖尿病患者で動脈硬化がある場合は降圧効果に差があることも示されている。脳梗塞がない微量アルブミン尿を有する患者においては収縮期血圧130mmHg未満に厳格にコントロールすることが死亡と透析導入の複合アウトカムを抑制するのに比し、無症候性脳梗塞を合併する微量アルブミン尿を示す患者では収縮期血圧を130mmHg未満にコントロールしても、130-139mmHgにコントロールした患者と腎アウトカムにおいて差がないことが示されている [12]。

● 顕性アルブミン尿の場合 (尿アルブミン 300mg/gCr以上)

顕性アルブミン尿患者においても降圧が腎予後を改善するというエビデンスは必ずしも十分ではない。降圧目標を設定したランダム化比較試験は行われておらず、サブ解析による結果から降圧目標について検討した研究がいくつか報告されているだけである。

Parvingらは1983年に平均年齢29歳の顕性アルブミン尿を呈する1型糖尿病患者に対して降圧薬による治療を行い、血圧が144/97mmHgから128/84mmHgまで低下するにしたがい、アルブミン尿が977mg/dayから433mg/dayに減少し、腎機能低下速度も0.91 mL/min/月から0.39mL/min/月に低下したことを示した[13]。当時はACE阻害薬やARBなどのRAS阻害薬もなく、使用された降圧薬はメトプロロール、ヒドララジン、フロセミドであり、いずれも糸球体内圧を低下させるものではない。この報告に対照はなく、いわゆるエビデンスレベルとしては低いが、明らかに収縮期血圧130mmHg未満への降圧治療が顕性アルブミン尿の糖尿病性腎症に対しては有効であることが示されている。

わが国の糖尿病患者のコホートで、顕性アルブミン尿を示す211名を治療した結果、HbA1c7.0%未満にコントロールした症例では微量アルブミン尿への寛解は約50%起こるも有意ではなく、収縮期血圧を130mmHgにすると約70%有意に寛解することが示されている [14]。すなわち、血糖のコントロールより血圧のコントロールの方がより有効である。

顕性アルブミン尿患者でARBとプラセボを比較したReduction of Endpoints in NIDDM with the AII Antagonist Losartan (RENAAL)のサブ解析では、イベントがおこる直前の血圧が130mmHg未満の患者と130-139mmHgの患者で1次複合エンドポイント(Cr2倍化、ESRD、死亡)、あるいはESRDの発生には差を認めておらず、腎アウトカムを改善する降圧は140mmHg未満であると結論されている[15]。ARBとCa拮抗薬とプラセボを比較したIrbesartan Diabetic Nephropathy Trial (IDNT)のサブ解析では、試験期間中の収縮期血圧は180mmHgから120mmHgまでは低ければ低いほど腎イベントは少ない [16]。しかし、死亡は120mmHg以下で上昇する [16]。すなわち、収縮期血圧120mmHg未満は過剰降圧の可能性を示す結果である。

アジア人を対象とした研究は少ないが、日本人と中国人の2型糖尿病患者に対するオルメサルタンの腎アウトカムに対する有効性を確認するために、オルメサルタンを10㎎より40㎎まで増量することにより治療した群とプラセボにより治療したプラセボ群を比較したOlmesartan Reducing Incidence of Endstage Renal Disease in Diabetic Nephropathy Trial (ORIENT)研究がある。ORIENT研究に参加した患者は平均年齢59歳、血清クレアチニン値1.62mg/dLである。このサブ解析では、収縮期血圧が130mmHgまでは低ければ低いほど血清クレアチニン倍化、透析導入、死亡からなる複合エンドポイントが抑制することが示されている(図1)[17]。また、尿蛋白1g/gCr以上の患者では収縮期血圧130mmHg未満でないとその効果が認められないが、尿蛋白1g/gCr未満の患者では、収縮期血圧は140mmHg未満でも抑制効果が認められている(図2)。また、治療開始後6か月の時点での尿蛋白は低ければ低いほど腎アウトカムは抑制され、尿蛋白が1g/gCr未満に至った患者では予後が最も良いことが示されている(図3)[18]。

これらの結果からは、顕性アルブミン尿を示す患者において、収縮期血圧130mmHg未満に降圧することが、腎保護に効果があることが示唆される。しかし、顕性アルブミン尿患者においても収縮期血圧120mmHg未満では過剰降圧となる可能性もあるため、慎重な治療が必要である。

図1

図2
図3

3. 高齢CKD患者の降圧目標

高齢者にもガイドラインで示された一般成人に対する降圧治療を適応すべきであろうか? 欧米の高血圧ガイドライン [1]やヨーロッパ高血圧学会/ヨーロッパ心臓病学会ガイドライン2013[2]では、150/90mmHg未満を高齢者の降圧目標としている。すなわち、140mmHg台の血圧は良しとするとのメッセージである。日本の高血圧治療ガイドライン2014は、65-74歳の降圧目標は140/90mmHg未満、75歳以上の高齢者の降圧目標は150/90mmHg未満とし、CKD合併高齢者では、忍容性がある場合のみ140/90mmHg未満を目指すことでさらに予後を改善できるとした。これは、日本で行われた2つのランダム化比較試験であるJapanese Trial to Assess Optimal Systolic (JATOS)、Valsartan in Elderly Isolated Systolic Hypertension Study (VALISH)で、140mmHg未満を目指した群と、140-159mmHg(JATOS)あるいは140-149mmHg(VALISH)を目指して降圧した群で死亡率、心血管イベントの発症、有害事象発症に差がなかったことによる[19, 20]。JATOSのサブ解析からは、腎保護作用は160mmHg未満の降圧で認められることも報告されており[21]、一般成人のCKD患者の降圧目標よりも高値でもよいという可能性を示唆する。しかし、エビデンスとしては十分ではなく、日本人には脳卒中の発症率が高いことから、降圧目標を高く設定することには抵抗がある。したがって、尿蛋白や糖尿病を合併するCKD患者の場合には、高齢者の降圧目標150/90mmHg未満をまず達成し、耐えられる場合には130/80mmHg未満を目指すことを推奨している。

高齢者で活力や筋力が衰えたいわゆるフレイルといわれる患者に対する降圧療法については十分なコンセンサスが得られていない。2型糖尿病を合併する60歳以上の高血圧患者コホート(40%がアルブミン尿を認める)で血圧と死亡率を評価した結果が最近報告された。フレイルがなければ、心血管死亡率と収縮期血圧は相関し、血圧が低いと心血管疾患は減少する。通常、収縮期血圧を140mmHg未満に維持することが最も心血管死亡を減少させ、160mmHg以上では心血管死亡率は高くなる。しかし、フレイルがあると血圧と心血管死亡率の間に相関はなくなり、収縮期血圧を160mmHg以下に降圧することにより生存率はむしろ低下することが示されている[22]。すなわち、フレイル患者は160mmHg未満に降圧しない方が生命予後は良いことを示唆する。

これらをまとめて、私案として、日本人の高齢CKD患者の降圧目標を図4に示した。高齢者は年齢とフレイルの有無で降圧目標を設定すべきである。また、その目標値に至る過程は緩徐であるべきであり、個々の特性に配慮した降圧治療を行うべきである。

図4

《文献》

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